【ビル・マンションの屋上】防水工事の基礎知識
ビルやマンションの屋上には必ず防水工事が行われます。なぜ屋上には防水工事をしなくてはならないのでしょうか?また、防水工事にはどのような方法があり、方法によって工期や耐用年数、工事費用などが変わるのでしょうか?
防水工事への疑問を解決しながら、防水工事の必要性と防水工事の基礎知識を確認していきましょう。
● 工法、工事の違いによって工期、コスト、耐用年数が変わります。
● 適切な時期に、屋上の防水層の状態に合わせて防水工事をすることが、ビルやマンションの資産価値を守ります。
Contents
ビルやマンションに防水工事が必要な理由
ビルやマンションの屋上には、戸建て住宅の勾配屋根のような傾斜がありません。実際には排水の為、目に見えないほどの傾斜はあるのですが、勾配屋根ほどの排水力はありません。その為、雨水が排水し難いという問題点があります。
雨が降る度に雨水が屋上に留まってしまうと、建物の劣化が進行してしまう為、防水工事が必要なのです。屋上の防水が不十分である場合、階下の部屋への雨漏りが起こるだけではありません。それよりも怖いことは、雨水が構造部に浸透してしまうことです。
木造住宅なら雨水で構造部が腐朽することも頷けるが、鉄筋コンクリートの建物が雨水で劣化するなど、ありえるのだろうか?と思われる方もいらっしゃると思います。確かに、ビルやマンションは鉄筋をコンクリートで包み込んで、鉄筋が錆びないような構造になっています。
しかしながら、コンクリートにはひび割れが発生しやすいという性質があります。ひび割れの原因の一つには、雨の後に「水分が蒸発していく際に起こる乾燥収縮」が考えられます。その他にコンクリートの中性化も考えられます。
空気中の炭酸ガスが、徐々にコンクリートの成分である二酸化カルシウムに反応し、中性化させてしまうのです。この中性化がコンクリートの内部まで進むと、鉄筋が「アルカリによって錆から守られていた状態」が壊され、錆びた鉄筋が膨張して内部からのひび割れを起こしてしまいます。
どの原因で発生したひび割れや継ぎ目からであっても、適切な防水工事が行われていなければ雨水が浸透します。雨水が浸透する→鉄骨が錆びる→鉄骨の錆が膨張し、内部から新たなひび割れを発生させる→さらに雨水が浸透するという悪循環が続き、最悪の場合には、耐震性に悪影響を与える恐れさえ出てきます。
防水工事は種類によって耐用年数が異なる為、新築時の防水工事の種類を確認することが大切です。その上で、現在の屋上のコンクリートの状態、建物の構造を考え併せ、適切な時期に防水層を改修施工することは、建物を守る為に必ずしなくてはならないことです。
屋上防水工事の工法の特徴
防水工事には複数の種類があり、期間やコスト、耐用年数、周辺への影響など様々な違いがあります。
工法の種類
屋上防水工事には「かぶせ工法」と「撤去工法」という2つの工法があります。さらに「かぶせ工法」には『再生工法』と『機械的固定工法』があります。防水工事には耐用年数が異なる複数の材料が使われますが、まず初めに工事の工法を決定してから材料の選定に進みます。
かぶせ(再生)工法
現在ある防水層で劣化してしまった部分を取り除き、取り除いた部分に下地処理をした後、新たに防水層をかぶせて再生させる工法です。
機械的固定工法
この工法もかぶせ工法です。現在ある防水層の下地に穴をあけ、新しい防水層となるゴムや塩化ビニルで作られたシートを、ビスなどアンカー固定する工法です。
撤去工法
現在ある防水層を全て剥がし、新築時の下地の上に新しい防水層を施工する工法です。
工法による特徴の違い
それぞれの工法による違いを具体的に比較してみましょう。
工期 かぶせ工法《短期》→撤去工法《長期》
撤去工法は撤去作業に時間がかかる為、工期が長引きます。一方、かぶせ(再生)工法は撤去する範囲が少ない、機械的固定工法は下地処理が簡略化できるという特徴がある為、撤去工法より短期間で工事が完了します。
コスト かぶせ工法《安価》→撤去工法《高価》
撤去工法は、防水工事の前に行う撤去工事と廃材処分に対する費用が発生する為、かぶせ工法より費用が嵩みます。さらに、機械的固定工法には、下地処理を簡略化することによるコスト削減という特徴もあります。
周辺環境への影響 かぶせ工法《安全》→撤去工法《危険作業を伴う》
撤去工法では、撤去する際に防水を一時撤去するため、雨養生を行わないと工事中に漏水の危険性があります。かぶせ工法ではその可能性が低くなります。
騒音・振動 かぶせ(再生)工法《少ない》→機械的固定方法《一部あり》→撤去工法《あり》
かぶせ工法で騒音や振動が発生する時間は長くはありません。一方、撤去工法では防水層を撤去する際に、騒音と振動が断続的に続きます。
総合的な比較
工法の選び方は、現在の防水層の状態によって変わります。かぶせ工法は上記の比較を見てもわかるとおり、メリットの多い工法です。ただ、改修の時期を逃してしまい、防水層の状態が悪くなっている場合には、撤去工法しか選択できなくなることもあります。
撤去工法
現在の防水層が撤去しなくてはならないような状態になっている場合には、この工法が採用されます。その場合には期間も費用も掛かります。ただ、かぶせ工法での改修ができるような仕様を選ぶことで、次回からの改修時のコスト削減ができます。
かぶせ(再生)工法
現在の防水層の下地を利用して新たな防水層を再生する為、改修後の耐久性が強く、工期とコストを抑えられます。加えて工事中の漏水の危険も少なくなります。ただし、もとの防水層との相性に配慮しなくてはならない為、新規の防水材料の選択には制限があります。
機械的固定方法
現在の防水層の状態が非常に悪い場合には効果的です。
コストと工期を抑えられる工法を選ぶ為には、適切な時期に防水工事をする必要があります。
防水層の工事の種類と特徴
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工法の説明に出てきた屋上の防水層とは、建物の屋上から雨水が浸透しないように施工する層のことです。防水層の施工方法には、塗る、張る、塗る+貼るという3つの方法があり、工事の種類によって作業のしやすさや耐用年数が変わります。
塗膜防水
液状のウレタン樹脂を塗った際に起こる化学反応を利用しで防水膜をつくる施工方法です。屋上には転落防止の為のフェンスが設けられていますが、防水工事の際には作業の邪魔になることがあります。そのような状況の場合には、細かな場所にも塗れる塗膜防水が向いています。
また、継ぎ目がない均一な仕上がりになる為、継ぎ目からの雨水の侵入が発生しません。ただ、技術者の腕によって「塗膜材の厚み」が変わってしまう為、仕上がりと耐用年数に差が出てしまうという面があります。
アスファルト防水・熱工法
液状の溶融アスファルトとアスファルトシートを二層以上重ね、防水性と水密性が高く厚みのある防水層をつくります。施工後の不具合が出にくいという強みがあります。また、改修工事では、建物を利用しながらの作業環境に対応した常温粘着工法(冷工法)やトーチ工法などがあります。
シート防水
ゴムや塩化ビニルのシートを接着剤で下地に貼りつける工法で、改修工事によく用いられる工法です。また「機械的固定工法」の場合に採用されるケースが多くなっています。
ビルやマンションの寿命を決める防水工事
ビルやマンションの屋上は、適切な時期に防水工事が必要です。劣化が進まないうちに工事をしなかった場合には、撤去工法での防水工事という選択肢しかなくなり、工期も費用も掛かってしまいます。
それよりも怖いことは、防水改修の時期を逃してしまった為に、構造部にまで劣化が進み、鉄筋が錆び、耐震性を脅かすような事態が発生してしまうことです。そのような事態を避ける為には、適切な時期に屋上の防水層の状態に応じた防水改修工事をしなくてはなりません。
それでは防水工事の適切な時期を見極めるにはどうしたら良いのでしょうか?
建設省総合開発プロジェクト(昭和55〜59年)の「建築防水の耐久性向上技術」資料によれば、現在の防水層がウレタン塗膜防水である場合の耐用年数は、前回の防水工事から約10年です。アスファルト防水押えコンクリート仕上げであれば約17年、アスファルト防水露出砂付き仕上げ、合成高分子系 シート防水は約13年です。
出典:公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター 産廃知識 廃棄物の分類と産業廃棄物の種類等
ただ、この年数は目安であって、建物の構造や気候、前回の防水工事の施工の技術力など、様々な条件によってこの年数より短い場合もあれば、長い場合もあります。そこで、まず初めにするべきことは、屋上の防水層の状態を見極めることです。
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劣化が認められる個所があった場合には、信頼できる業者、国家資格を持った技師に調査を依頼することが大切です。調査の結果と現在の防水層との相性を考え併せた上で、最適な時期に最適な方法で防水改修工事を進めていくことができます。
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